国際学会報告~世界肺癌学会:WCLC2023~
2023年9月9日から12日にシンガポールで開かれた,世界肺癌学会(WCLC2023)に参加しました。当院からは3演題を発表しました(Poster発表1演題、ePoster発表2演題)。コロナ禍後,大学院生が初めて参加する国際学会となりました。
WCLC2023は肺癌研究者にとって、米国臨床腫瘍学会(ASCO)、米国癌学会(AACR)、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)と並ぶ主要な国際学会です。会場に着くやいなや、その規模と熱気に圧倒されました。
今年のWCLCでも、重要な研究が多数報告されました。まず、TNM分類の第9版が発表されました。N2がN2a/N2bに、M1cがM1c1/M1c2に分かれます。膨大な患者データベースの予後解析をもとに、肺癌の解剖学的分類がさらに細分化されました。次に、"The Next Tsunami"と題されたセッションで、抗体薬物複合体(ADC)の試験結果が多数発表されました(HERTHENA-Lung01、EVOKE-02、TROPION-Lung04など)。Plenary session(全員参加セッション)と見紛うほど多くの聴衆が、発表スライドをスマホで撮影し、興奮冷めやらぬままSNSに投稿していました。その他、周術期の化学療法や、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)耐性化についてなど、ホットトピックが目白押しでした。
COVID-19パンデミック以降、ウェブ配信の充実により、現地に足を運ばずとも国際学会の内容を学び取りやすい環境ができあがってきています。一方で、ついさっき聴いた発表について他国の研究者と議論することは,現地でのみ得られる経験でした。また、その場の盛り上がりや景色とともに、エピソード記憶として脳に刻みこまれた研究もありました。
最後に少しだけ,シンガポールについて述べます。航路で片道7時間半かかりますが、時差が1時間しかなく、体への負担はそれほどありませんでした。マリーナベイサンズをはじめ,独特の形でそびえ立つ建物が多く目を引きました。地震が起きないため,前衛的な建築が可能なのだそうです。また、当科出身の小林慧悟先生のご案内で、National Cancer Centre Singaporeも見学させていただきました。充実の研究設備を見ながらシンガポールの医療と研究の実際を教えていただきました。
これらすべてが,得がたい経験となりました。また晴れの舞台に臨めるよう、日々の研究に邁進していきます。貴重な機会をありがとうございました。
文責:木下雄仁