題名
Analysis of clinical outcomes in elderly patients with impaired swallowing function.
邦題
嚥下機能の低下を有する高齢者における臨床アウトカムの解析
著者
慶應義塾大学医学部 呼吸器内科 砂田啓英也
掲載ジャーナル
PLOS ONE
https://journals.plos.org/plosone/article/comments?id=10.1371/journal.pone.0239440
論文要旨
背景
高齢化が進んでいる日本において、高齢者の主な死因のひとつである嚥下機能低下に起因する肺炎が社会的・医療経済的に問題として挙げられる。しかし、同疾患に罹患する患者の嚥下機能と長期的な予後との関係については過去明らかになっていなかった。
方法
2010年1月1日―2017年12月31日の期間、北里大学北里研究所病院(著者の出向病院)において嚥下機能評価が行われた75歳以上の患者計991人を対象に、藤島式摂食・嚥下グレード分類を用いて初回評価時の嚥下機能別に3群(重度、中等度、軽度および正常)に層別化したところ、(Table)重度嚥下機能低下群で長期予後が悪いことが判明した。さらに重度嚥下機能低下群において、長期予後に関わる因子を検討するために多変量解析を行った。
結果
高齢・重度嚥下機能低下患者308人の解析で、初回嚥下評価時の嚥下機能および胃瘻作成が予後因子として挙げられた(A,B)。また、胃瘻による予後延長効果は嚥下機能が悪い(Grade 1, 2)ほど高い傾向があり、Grade 3の患者群では胃瘻造設による予後延長は認められなかった。
Table
Groups | Grade 摂食・嚥下状況のレベル評価 (n) |
I 重度嚥下機能低下 経口不可 (n = 308) |
1 嚥下困難または不能。嚥下訓練適応なし (n = 27) 2 基礎的嚥下訓練のみの適応あり (n = 105) 3 条件が整えば誤嚥は減り、摂食訓練が可能 (n = 176) |
II 中等度嚥下機能低下 経口と補助栄養 (n = 153) |
4 楽しみとしての摂食は可能 (n = 32) 5 一部(1-2食)経口摂取 (n = 36) 6 3食経口摂取プラス補助栄養 (n = 85) |
III 軽度嚥下機能低下と正常 経口可能 (n = 530) |
7 嚥下食で、3食とも経口摂取 (n = 243) 8 特別に嚥下しにくい食品を除き、3食経口摂取 (n = 154) 9 常食の経口摂取可能、臨床的観察と指導を要する (n = 73) 10 正常の摂食嚥下能力 (n = 60) |
Figure
結論
重度の嚥下機能低下を有する高齢者の一部に対して、非代替栄養療法として胃瘻を作成することは生存期間を延長する効果を有するが、長期的な展望や本人家族の希望も含めた倫理的配慮が必要である。
本論文の与えるインパクトや将来の見通し
経口摂取困難な高齢者に対する非代替栄養療法の選択は、患者・家族ならびに医療側において「延命」と「個人の尊厳」という倫理的問題に直面する。重度嚥下機能低下を有する高齢者の一部に胃瘻を作成することが予後の延長効果を有することは明らかであるが、本人や家族のみならず医療者を含めて長期的な展望を加味して意思決定をしていく際に、拙著が判断の糧となりうることを願う。
※本研究は、公益財団法人医療科学研究所2018年度研究助成および公益財団法人総合健康推進財団第35回一般研究奨励助成を受けたものである。