留学便り

君塚善文先生 – 留学先:Massachusetts General Hospital

Q1 君塚先生の経歴を教えてください

Massachusetts General Hospital

2004年に慶應義塾大学医学部を卒業後、慶應義塾大学病院の卒後臨床研修・内科専修医制度によって、大学病院のほか、済生会宇都宮病院、平塚市民病院などに勤務しました。2008年4月に慶應義塾大学医学部呼吸器内科に入局と同時に大学院博士課程に入学。慶應義塾大学病院で呼吸器内科医として勤務する傍ら、東邦大学医学部微生物感染症学講座に国内留学もしていました。2012年3月に博士課程を修了し、日野市立病院で呼吸器内科医として赴任していましたが、2014年9月に渡米し、ハーバード医科大学マサチューセッツ総合病院感染症学講座ワクチン・免疫療法センターへ博士研究員として就職しました。

Q2 留学先での研究や生活について教えてください

私の現在の研究テーマは、「特定の安全な条件の光を皮膚に前もって照射することで、接種されたワクチンの効果を高める」という研究をしています。このテーマは、元々はソビエト連邦の軍事研究に端を発しています。ソ連崩壊の際にアメリカ合衆国が接収した膨大な軍事研究資料から有望なテーマとして見出され、現在の留学先で研究されるようになりました。我々は発光源としてレーザー装置を使っていますが、これは医療の分野では既にシミ取りや刺青の除去、近視矯正手術などに安全に使われている医用工学技術なので、同じく臨床応用されているワクチンとの組み合わせは、比較的短期間に実臨床へ応用できる可能性が高いと考えています。私達が目指していることは、突き詰めれば「光が生物の免疫反応をどのように制御するか」という事象を明らかにすることです。完全な解明まで私達に達成できるかどうかはまだ分かりませんが、光をこのような形で用いた医療は近い未来に実現していくものと思っています。

それぞれの置かれている立場や意気込みによって研究者達の生活スタイルは大きく異なります。私の周囲の環境は極めて競争的なので、私も含めた同僚たちは研究にかけている時間が非常に長いと思います。一方、業務の配分については受動的にならざるを得ない臨床と比較すると、かなり自分で制御できるので忙しい日々の中でも余暇を満喫することができていると思います。特にボストンは四季折々の変化に富んでおり、市街地だけでなく郊外のアクティビティや近郊の都市へのアクセスも充実しているので楽しいです。

Q3 留学の楽しいこと、つらいことを教えてください

漠然と学生の頃から「海外で生活してみたい」という憧れを抱いており、ふわっとした気持ちのまま渡米しましたが、就職面接から厳しい試練の連続で打ちのめされました。ここでは日本で受けてきた教育は価値を認められないし、英語が下手なら能力を低く見られますので、ほぼ自分が"無価値な存在"から始めなければならなかったことが辛かったです。但し、そのような経験はなかなかできないので貴重なものとして考えるようにしました。今では、日本人的な勤勉さで着実に結果を出すことで、競争の激しさから次々と離脱していく同僚も多い中にあっても存在を確立し、皆から認められるようになったことが喜びでもあります。

また、多種多様な人種・文化の人間が同じ職場で働くことにより、それぞれの個性を通じてお国柄を肌で感じることが出来て非常に興味深いです。そのような観察から世界で何故争いや差別が止まないのか、経済破綻する国があるのは何故か、など自分なりに考え、理解するきっかけにも繋がり、自分でも驚くことがあります。

Q4 医局の後輩、入局を考えている方へメッセージをお願いします

大学の医局へ所属するメリットの一つとして、「人生の一時期をきちんとした研究活動に費やして科学的な考え方を学ぶ機会を得る」ことにあると思います。私には、この訓練が海外のラボで自分の腕を試す上で貴重な財産になっています。また、科学的な思考は厚みのある臨床に活かされると思います。皆さんが私達の仲間になって更に大きく可能性の翼を拡げてくれたら最高です。